具体的な目標として、この問題を解決することが会社の体質が変わってきたなと思えるシンボルになりうる課題を持ってくることが考えられる。 五合目の目標《途中の目標》になりうるものには大きく分けて二種類ある。
風土・体質改革のオリジナルな目標と通常の経営課題を風土・体質改革の視点からとらえ直した目標である。 風土・体質改革のオリジナルな目標というのはその目標を達成することが、風土・体質の改革のシンボルとなりうるような目標である。
例えば、その会社の中心的な役割を果たしている営業会議を報告と詰問以外の発言のない状況から、意見が飛び交う活気に満ちた会議にしよう、というように変化が具体的に見える目標がそれだ。 この目標を本当に達成するのはそんなに簡単なことではない。
本当に中身のある議論が出るようになるには、営業の現場で営業の中身が変わっていく、というようなことが起きてこないと、実現できないからだ。 その意味で風土・体質の変化をかなり反映した具体的な途中段階の目標ということができる。

つまり、この目標が達成できても頂上に行き着いたわけでもないのがこういう目標の特徴なのだ。 こういう目標を持つというのは、みんなでわかりやすい目標を共有するという意味だけではない。
もうひとつは改革という山の頂点を目指して、今はどこまで登ったのかという見直し《評価》を可能にするという意味を持っている。 この評価の視点には通常三つ考えられる。
まず最初は経営に対する信頼感がどの程度回復されたかである。 経営に対する信頼感が失われている会社では社員は自分達の情報が経営に届くことを極端に嫌う。
それが自分に対するネガティブな評価につながることを恐れるからだ。 自分が正当に評価されているとは思っていない。
極端な場合は、自由な議論をしようとしても、半ば本気で隠しマイクの存在を気にするようになるのだ。 経営に対する信頼感が回復し始めるというのは経営陣がやろうとしていることに納得し、経営の誠意を社員が信じられるようになるということだ。
自分に対する評価にもそれなりに納得するようになる。 風土・体質改革の第一歩は経営に対する信頼感を取り戻すことから始まるのだ。
評価の視点の二つ目は、仲間に対する信頼感の回復である。 特定の個人と信頼関係を持っているというだけではない。
自分が言い出しっぺになったとき、自分だけが孤立するのではなく、必ずサポートしてくれる人間があちこちにいるという安心感であり信頼感だ。 こういう状態が実際に生まれるには、実はお互いにいつも相談しあえるような関係があちこちに無数に存在するということが必要なのだ。
こういう信頼感を持てたとき、人は言い出しっぺにもなりうるのだ。 つまり風土・体質改革とは例えば人事制度を変えるなどという課題もそのひとつだ。
人事制度を変える場合、かつては人事部門のプロジェクトチームがあちこちにヒアリングをして同時に外からも情報を取り入れながら、自社に合った制度をつくり上げるというのが普通だった。 この場合、ヒアリングはするのだが、ひとつは十分に意見を引き出し得なかったり、もしくは難しい事を言いそうな人物は初めから無意識のうちに対象から排除してしまっていたりということがよく起こった。

さらに問題なのは実際にできあがった制度をつくった側の意図通りに運用することが非常に大変だということである。 与えられた人事制度というのは誰にとってもなんとなくしっくりなじみにくいものであり、制度をつくった側の意図が十分理解されないままに運用されていくことが多いから結局うまく定着しないまま終わってしまうのだ。
言い出しっぺが出てきやすい環境をつくることでもあるのだ。 三つ目の評価の視点は、この言い出しっぺになるような人物、つまりいつも問題意識を持ち、情熱と熱い思いを持つような変革型の人間をどれくらい発見し育て上げられるかということだ。
風土・体質改革はこういう変革型の強力な人間の存在なくしては語れないからである。 こういう人間をどれだけ数多く育成できたかが評価の視点である。
このような三つの評価の視点は何も風土・体質改革のオリジナルな目標にだけ必要なのではない。 実は通常の経営課題もこういう視点での評価をすることが大切なのだ。
言うまでもなく通常の経営課題はそれなりの独自の目的、意味がある。 しかし課題によっては風土・体質改革的なアプローチをしていったほうが課題自体も本質的な解決をしやすいし、同時に風土・体質も変化するという課題がある。

経営課題と風土・体質的課題をリンクさせる、つまり経営課題を風土・体質改革の五合目の目標にするというのはその他にもいろいろなものが考えられる。 例えば営業における成功例を軸に展開するというような課題もそうだし、たとえばアサヒビールのフレッシュ作戦などは絶好の風土・体質改革の目標になりうる。
フレッシュ作戦というのはお客様に新鮮なビールを飲んでもらうために工場を出荷してから七日以内にお客様の下に届けようというものだ。 このフレッシュ作戦というのは一種のCS(顧客満足)戦略と言えるのだが、部門を超えて協力が必要である点など、風土・体質改革的な要素を多く持っているのだ。
風土・体質改革的な視点で経営課題をとらえるとき、当然その成功へのアプローチの仕方も変わってくるし、成果の評価も単に課題自体がどう達成されたかだけでなく、先の三つの視点からの評価も変わってくる。 これに対し、風土・体質改革の視点を持って人事制度を変えるというのは、可能な限り制度をつくり上げるプロセスに社員を巻き込んでいくということである。
特に社員のなかで関心がありエネルギーのある人間に議論のプロセスに参加してもらうことが大切だ。 もちろん多くの人が議論に参加をするというのは、しっかりしたリーダーシップや基本的な考え方《軸》がしっかりした人間が中心にいないと困難である。
けっして簡単なことではないが、こういうふうにしてつくられた人事制度は魂が入っているため、実際にも運用が非常にやりやすいし、問題点が出てきても修正がききやすいのだ「大切にすること」をみんなで共有することによって、それに基づく判断がしやすくなる。 自分で責任を持って考えて判断する、ということができるようになるには、自分の判断が間違っていない、すなわちその判断をすることで「ありたい姿」に向かっていく、という自信が必要だ。
軸としての判断基準をはっきりさせる第二番目に大切なのは、変革をしていく際に大切にする価値としての中心軸を明確にする、ということだ。 ソフト面での改革を進めるというのはけっして体質改革を経営課題と分離してやることではないのだ。
大切なのは経営課題の中にいかにうまく風土・体質的課題を組み込んでやっていくかなのだ。 このような具体的な目標が見えるとそれに向けてのシナリオも描きやすくなる。
つまり具体的な目標を持つことで、自分が何をしていけばいいかということがわかってくる。 言い換えれば変革に対する大局観を持つ人が生まれやすい。
私(S)たち社外プロセスデザイナーが改革のお手伝いをするときに、成功の条件としては社内に私たちをうまく使える人間がいることが必要である。

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